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硝子の挿話

第11章 予感

 自分たちの描く容(かたち)を正当化させたい。そういう気持ちが強いことも知っている。それで離れられるぐらいなら、二人は逢瀬を重ねてはいなかった。
 唇が辿るティアの容。頬を滑らせ、瞼に寄せてひとつ。
 纏められている髪飾りを、利き手で外す。一本に纏められた櫛飾りを引き抜けば、長い髪が一気に零れ落ちた。
 僅かな月と星の灯りに反射する水面。
 波の揺らぎにきらきらと光る。
 風が撫でる髪に触れ、ユウリヤは顎を指先で辿った。


【……キミが叶えてくれた】
【キミとは出会うべくして、出逢ったんだ…】


 軽く口ずさんだのは、二度と弾けないと思った曲の歌詞。哀愁ではなく、愛しさを織り創られた曲目。―――『恋路』。
 軽い出だしで始まる曲は、優しく人が歩く速度で作られた。
 偶然を必然と変えて、織り成していく二人は、手をとり互いに微笑み合う。
 同じ道を歩いていく。
 途中には喧嘩をして、泣いて笑ってと章ごとに変化して様は、重く沈むのに浮上していくごとに軽やかさを取り戻していくのだ。
 生まれて初めての恋を、失ったときに封印した曲目。いつか心の終結が着くときに、ティアに聞いて欲しいと思った音曲。
 節を知っているのか、ティアは瞳を見開いて、すぐ側にいるユウリヤの首に両腕をやんわりと回した。

 抱きしめる為に。
 愛しさを伝える為に。

 知覚で確かめ、指を忍ばせる。
 凌ぎあう熱と息。
 せめぎあう恋と愛。
 愛しさを唇に。
 恋しさを指先に。
 差し伸ばしては、触れ、解く。
 幾度も幾度も指先が離れては、互いを探して固く結び合う。
 一度でも重ねると、離れられなくなる。………







 空が明るくなってくると、腕の中で眠っている顔がくっきりと見えた。
 吐息は安らかで、ユウリヤは昨日解いたティアの長い黒髪を掬い、そっと唇を寄せて触れてみた。

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