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硝子の挿話

第11章 予感

 ひらひらと虹色の羽根が舞う。
 隣りで眠る少女。
 還る場所は、柔らかく白い。

 か弱い両腕。


 ユウリヤは無意識で微笑んでいた。
 朝に慣れた筈だったが、整う呼吸が眠りを、自分を優しく導いていく。
 この幸せが、永遠になればいい。
 せめて、時間が切れるまで。
 閉ざした瞼の奥で、少女が笑っていた。
 昔愛した少女は、嬉しそうにう頷いてくれる。幻想なのは分かっていても、彼女ならきっとこの恋の成就を喜んでくれる。
 ユウリヤが知る他の誰よりも、前向きで、明るく優しかった娘。
 眠りの波は深く浅く……。




 衝撃に目が覚めた。
 一瞬何が起きたのか、ユウリヤにはわからなかった。
 しかし地震が多い土地の生まれであるユウリヤは、直ぐに理解すると、腕で眠っていたティアが目を覚ましたことで、抱きかかえて外へと飛び出した。

「!」

 すっかりと脅えて全身を震わせているティアが、ユウリヤに顔を寄せて抱きついたまま離れない。
 それを両手で抱きしめ、四方に視線をさ迷わせる。
「っ!」
 唸る大地は暫く不安を伝えるとあっさりと動きを止めた。





 海水がすっかり乾き、少しパサついているティアの下ろしたままの髪を撫でる。恐らく時間にすればものの数十秒が、永遠と続くのではないかと思うほど長く感じた。
「今のは………」
「ああ、水耀宮は地震があまりなかったか?」
「はい…」
 まだ青い顔をしている。
「大丈夫だ…これぐらいの揺れでは何も崩れない」
 全てが静寂に返すと、波が引いていく。ユウリヤは言葉もなく、ティアを抱え込んだままこの場所から離れることを考えて結界を抜けた。
 どれだけ走ったのか、ユウリヤが普段暮らす街が見える森林まで戻ってきていた。

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