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硝子の挿話

第11章 予感

「平気か?」

 抱いていた手を肩から下ろす。ティアは余程怖かったのか、それでもまだしがみ付いたまま、後ろの光景を見ていた。
 顔を、ユウリヤの胸に押し付けて怯えていた。

「もう…大丈夫だ」

 仕方がないと、ユウリヤはティアの震えが止まるまでの時間、ずっと抱きしめて髪をすいていた。
「落ち着いたか?」
 半刻ぐらい抱きしめていたユウリヤが、震えの止まったティアを覗き込む。
「…恐か…った…で…」
「怖くない…俺が居る」
 呪文のように繰り返し、ティアの瞼にキスをする。蒼白だった顔を上げたのは、十二分に時間が経過してからだった。
「どうした?俺がいるのに不安か?」
 覗きこんで、寄ってしまっている眉間を、一指し指で軽くつついてみる。頭を小さくふって、ティアは少し頬を染めてうつ向いた。
「?」
 何故かティアは背後に、汗を飛ばしながら、視線を合わせる。恥ずかしいのか、上目使いでユウリヤを見ては、又、伏せる。
「??」
 それを数回繰り返し、ユウリヤのズボンをきゅっと握りしめ、蚊の鳴くような声をだした。
「…はよう…ご、ごさいま…っ…すぅ…」
 背後には大量の汗が飛び散っていた。
 起きて時間は過ぎているし、抱きついて怯えと不安が遠くへ行くまで感じなかったが。自分が今薄着であり、感じる痛みに真実が思い出され、ずっと朝はこう言って始まろうと思っていた気持ちを吐露した。
「……一番きちんと言いたかったのです…」
 どうしても恥ずかしくて、つい言葉尻が下がっていく。ユウリヤは一瞬、ぽかんとしたものの、すぐにそっとティアを抱き締めた。
 怯えないように、壊れないように、―――優しく慈しむように。

「おはよう…」

 悪戯を思いついて、ティアが好きだという高さで、耳元に寄せた唇が軽く自朶に触れる。くすぐる行為に、ティアは肩を震わせた。
 その過敏さが、愛情を深めていく。

 おかしくて。
 でも。
 可愛くて。

 ユウリヤは駄目だと、自分を叱咤しながら。ついついふきだしてしまった。
「ぷっ…くくく…。か、可愛いよ…」

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