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硝子の挿話

第11章 予感

 爽やかに流れる風が、暗雲の全てを拐って消していく。
 ユウリヤはティアが大地の震えに意識が戻らないように、愛情のみを前面に見せた。
「ひどいです…ぅ」
 すっかりしょげながら、新たに汗を背後に飛ばすティア。無邪気な戯れが、気持ちいい…。

「決めた。…俺は水耀宮のお抱え楽師になる」

 ティアの側に居たいから。
 誰よりも側に居たいから。

「……ぇ?」
 ずっと前から、打診は来ていたのだと告げて、唇をかすめるように奪う。
「悩む必要なんて無かった。…俺も生涯誰とも結婚しない。…ティア以外、誰とも」
 自分に何度も問いかけては、繰り返した答えを確信した。

「俺の…生涯の恋人になってくれないか?」

 迷いを振りきったユウリヤは、輝く瞳をティアに向けて笑う。陽の光に透けた笑顔が眩しくて、ティアは見惚れてしまう。
 屈託のない眼差し。
 男の毅さ。
 輝きを満面に見つけて、ティアは瞳を細めるばかりだ。
「…なる?」
 重ねて問うユウリヤを、ティアはズボンの裾を、より強く握る。表情は伏せられたが、赤くなった首筋が見えた。

「私で…良いのですか…?」

 恥ずかしいのと、嬉しいのと、それよりも面倒な立場に居る自分で本当にいいのかと。問いかける言葉は、心の奥深く刺さっている。今はまだ容の欠片も成していない。
「俺が守りたい…」
 脅えた瞳で、ユウリヤを見上げている。そんな目で見られると、自分の独りよがりみたいでいたたまれない。分かってやれない―――ティアの闇。
 どうすれば拭えるのか、ユウリヤは教えて欲しかった。

「何を隠しているんだ?」

 うつ向いて、唇の噛み締めて縛られている。
「何を耐え続けているんだ?」
 問いかける言葉の裏にある『受けとめたい』という願いと、拡げた両腕にその小さな身体を預けて欲しい。
「―――私…」

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