テキストサイズ

硝子の挿話

第2章 刹那

「………」

 人波をすり抜けながら、二人は行きたい場所はあれど、目的も大して無くぶらつき始めた。
 街を横切る上で双子と言うのは珍しいのか、振り返る目はとても多い。印象は全く違うのに、顔やスタイル同じだからかも知れない。
 鮮やかな千遼はキク科のダリアを匂わせるが、同じキク科でも千尋はガーベラのような花をイメージする。
 振り返る視線に、元来鈍感な千尋でさえ、少し居心地が悪い中で、見られることには慣れている千遼は、完全無視と無関心をきめこんでいた。

「ねぇ、君達双子?暇?」

 なんとなく本屋で雑誌を立ち読みしている千遼に、同じ歳ぐらいか少し上の手入れのされてなさそうな、パサパサした茶髪の男が話かけてきた。
「暇なら遊ぼ~よ、な!」
 硬直し立ち尽くす千尋に、もう一人の茶というより金に近い頭の男が話しかける。
「………」
 こういう場面だとどういう言葉を返せばいいのか、戸惑う千尋の動揺を感じて、営業スマイルさながらに千遼は笑いかけた。

「今日は無理、じゃ!!」






 硬直したまま動かない千尋の手を取って。階上のコミックを見に行くと二人は微妙な位置でまだ待っている。
「ハルちゃん…」
 二人組の視線が何度も巡るから、千尋は完全に脅えていた。
「ねぇ?カラオケだけでも行こうよ?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ