テキストサイズ

硝子の挿話

第2章 刹那

 どうも引き下がるつもりもないらしい。千遼は額を押さえて考え込んだ。
「場所がはっきりしててもだめかな?」
 食い下がる男二人に、千尋の目は既に半分涙がうかんでいた。
 人一倍臆病で怖がりな姉妹を、千遼が抱き寄せて男達から見えないように背中に匿った。
「あのさ~、本当、無理なんだよね………ごめんね」
 満面の笑顔で言い切る千遼に、男たちも顔を見合わせてため息をついた。
「じゃな!」
 まだ凍結している千尋の腕を引き、本屋を後にしようとした時に片方の男が呟いた。
「同じ顔でもあれは駄目だなぁ…」
 ぼそりと言ったのだろうが、その言葉に千尋は凍った。
 ああ、やっぱりかと思う気持ちが浮き足たっていた心に水を差す。分かっていることだった。
 誰に言われなくても、自分が一番よく分かっていることだ。
 千尋はさっきの男の呟きが、千遼に聞こえていないのを横目に確認すると唇を一瞬だけ噛んで離した。
 店から遠ざかると手を離した千遼は近くにあったコーヒー店に入る。後に続いた千尋は先ほどの感想をひとつ口にした。

「鮮やかです…」

 にっこり笑って、素直な感想を述べる。気を使って欲しくないのもあるが、今、胸の内に渦巻く気持ちを知られたくなかったから。
「あ…んが、…とよぅおぅぉぅ…」
 二人が逃げ込んだ先は、コーヒーの専門店で、そのまま仲良くアイスロイヤルミルクティーをふたつ頼み、休息に辿りついた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ