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硝子の挿話

第12章 眷恋

 ごめん、もう一度呟いてユウリヤは腰に巻いていた―――緋色の布を解くと腕輪の上から巻いた。
「『ティア』と俺は居たい」
「………はい」
 水姫神子の従者としてはなく、少女の恋人でいたいという意味が通じたようだ。ティアはまた少しだけ頬を染めると嬉しそうな微笑を見せた。
「俺の部屋においで」
 こうして腕に布を巻いて、髪を解いているだけなのに、ティアがリリティア本人だと分からない。それこそどこにでもいる普通の娘と同じだ。いや寧ろ幼いあどけなさが、全身で甘めに見える。
「髪、下ろしている方が可愛いと思う」
 覗きこんで、前髪をよけて軽く額に唇で触れた。
「…はい」
 長い髪は膝下に流れている。風に揺れる黒い髪は、光に透けて碧に見えた。

「来るか?」

 確認を取るユウリヤに、ティアは返事の代わりにその腕にしがみつく。
 薄着だと分かっていても、自ら抱きついたのは恥かしい。けれど離れたくない。もっとひっついていたい。
 二人は、初めて腕を組んで歩きだした。
 街に入ると振り返る人は一同に、少女が『水姫神子』だと気がつかない。ただ無邪気に、幸せそうに笑う姿にみとれた。
 元々可憐な顔をしている。いつもの武装した微笑じゃない笑顔は、髪型のせいもあるのだろうが、器量のいい普通の街娘に見えた。

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