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硝子の挿話

第12章 眷恋

 反対を押し切り、民に課税される金を必要以上に取り立てない政策は、民を裕福にするか試して見たかった。
 なかなかひとつの街だけに顔を出すことも出来ずに、彼からの返事を待っていた。
 税が多かった時よりも、僅かばかりだが民衆に笑顔があるように思うのは、それだけ彼の力が凄いのだと改めて感動を覚えた。
「ティア?」
「………私、此処の神官様にお会いしたい」
 熱に浮かされているみたいだと、ユウリヤは苦笑交じりに思うのだが、それも抱えている闇に関連があるのかも知れない。
 時々厳しさを見せる表情の奥に隠された世界に、まだユウリヤは触れられない。

「…服を買ってから、宿屋に行こう。飯も食ってからだ………よれよれで行っても失礼だからな」

 溜息に思考と嫉妬を押し出す。水耀宮にも太陽宮ほど完全ではないが、民衆が自由に出入り出来る湯治用温泉がある。宿屋には枝分かれした温水が存在する。
「はい、ユウリヤの泊まる宿に参りましょう。…本当なら私が手料理などを作りたいのですが、…生憎、その、家事なんてできなくて…」
 言いながら、慌てているのが分かる。背後には可笑しいほどの汗が飛んでいた。
「いいよ。二人で外食しよう」
 ティアと逢わない日や夜などに、ユウリヤは近くの酒場で楽を奏で、見返りに貰った小金が、いくらか懐に収まっていた。
 懐は多少とは言え、紐を緩くしても、構わないぐらいには溜まっていた。

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