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硝子の挿話

第12章 眷恋

「小物を少しずつ増やしたりなんかも…したいな」
「………はい」
 ユウリヤはティアの腕を強引に引き寄せ、立ち並ぶ町並みの影―――壁と壁の間に、誰も見ていないのを確かめると、影が強い方へ。ティアの身体を壁に押し付け少し反らさせる。
 ゆっくりと顔を近づけていく。

 吐息が触れ、重なる唇と鼓動。…






 少し深めのくちづけを交わした。………









 ユウリヤが現在、ほぼ住んでいると言って過言ではない宿屋は、同じように渡りで仕事をする人々が沢山いた。
 水耀宮という都で考えて見ても、決して小さくはない。そこでの公共風呂にゆったりとつかる。流石に男女の垣根がある分、光の下で醜い傷跡を晒さずにすむなら幸いだと苦笑した。
 ゆっくり誰も居ない湯に浸かるのは、ティアにしてみれば初めての経験でもあった。
 いつもは周囲には巫達がいて、侮蔑でもする瞳で、この肌を洗っていた。
 全身を洗い流した身体に、ユウリヤから贈られた服を、ゆっくり身に纏い、しっかりと鏡の前に立った。
 白以外を着るのは、小さい頃から考えても初めてで、少なからず戸惑いがある。薄紅に染められた長袖の裾が少しだけ短い衣装は、ふわりと風を孕むと膨らんだ。
 肌を晒すことは苦手だが、似合うと買ってくれた服を着てみたい。
 鏡の前でくるくると回り、同色のリボンで横に軽く結わえた。
 時、同じように湯あみを済ませ、待っていたユウリヤの前にこっそりと出た。

「…似合っている」

 聞きたいと思った言葉を、聞けて満足するティアを、抱きこんでくるユウリヤ。
 小さな幸せを、寄せ集めて作るのが『幸福』という言葉。
それはなんて輝いているのだろうか。ティアは喜びを両手な抱きしめていた。
「ユウリヤ…」
「何?」
 満面に咲く、大輪の花のように綻ぶ笑顔。

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