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硝子の挿話

第12章 眷恋

「ありがとう…なのです…」
 子供の頃に戻ったように、ティアは全身でユウリヤの愛情に甘える。握られた手から、伝わる愛情。握り返した手から、伝える愛情。望むことは生涯、不可能だと思っていた。

 ―――互いに、二人出会うまで。

 二人はそのまま外へ出かける。まるで田舎から出てきたみたいに、周囲をきょろきょろと探索しながら歩いて回る。
「何が食べたい?」
 色々な店が軒を並べ、活気に満ちた者達が、店の宣伝をしていた。
 特に食事時は、飲食店にとっても大量に客足を稼げる時間だ。威勢のいい声が、観光者や休憩者を誘う。
 大概の店は、自分の店へと呼び込みに力を入れていて、この辺りは飲食店が軒並みを揃えていた。
「…食べたいもの…」
 人差し指を顎に添えて、空を見上げて考えている。食べたいものが色々と駆け巡っていた。
「食べたい…甘いもの?」
「いや、食事だから」
 小首を傾げて問いかけるティアに、それは食事じゃないとユウリヤは即座に返す。
「…ううん…食べたいもの…食べたいもの」
 何やら真剣に悩んでいるらしいティアの手を引いて、色々と取り揃えている店にティアを連れて入った。
「此処なら献立項目を見て選べる…」
「はい!」





 店の玄関を潜ると、案内をしてくれるティアと似た年齢だろう少女が、献立項目が刻まれた板を持ち誘導した。
「決まったら呼んでください」
 献立項目を二人の間に置くと、次の客へと向かって立ち去っていく。
「何がいい?」
「先に見てもよろしいので?」
「よろしいも何も、…ああ、そうか。太陽宮では女性からという風習があるんだ」
「そうなのですね、では水耀宮とは逆なのです」
 嬉しそうににこにこと笑いながら、では失礼しますと言い置いて献立項目を手に取った。
「私、どうもお肉やお魚の類は苦手なのです」
 肉は臭いが駄目で、魚は目が怖い。子供みたいだと自分が思うから言えない。
「………目が怖い、とかか?」
 何気なく放った一言に、ティアの持っていた献立項目が並ぶ板が机に落ちた。

「ぇ?」

 顔は笑顔だが、見るからに図星をついてしまったらしい。ひとつの塊に固まってしまったティアを楽しそうに見ている。
「そ、そ…そんなんじゃ………」

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