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硝子の挿話

第12章 眷恋

 こうして一緒に居る時のティアは、ユウリヤにとって、大切な可愛い恋人以外何者でもない。だからこそ『姫神子』としての彼女『リリティア』は正直に好きとは言い切れない。
 張り詰めて。限界に引き伸ばされた弦が、今にも弾けるのではないかという危ぶみが、見ていて痛々しいし―――怖い。
 遠く輝く天井を飾る星みたいに、距離と存在を感じる。時々見せている顔をきっとティア自身は気がついてないだろう。しかし楽を奏でる横で、海を真摯に時に厳しく眺めている姿は、悲しくなるほどに、荘厳な空気を醸し出し、ユウリヤからティアを奪っていた。

 それが堪らなく、嫌だった。

「願いは一緒だな」
 二人がこうして並んで立つまでに色々あったし、これからもきっと色々あるだろう。二人の恋は多くの人から祝福されることもない禁断な恋であり、秘密を厳守に続けていく。
 ユウリヤが水耀宮に住むなら、必要以上に悟られてはならない。はっきりと公私を切り放さなければならないことを誓わなければならない。
 ティアを断罪される訳にも、ユウリヤ自身が断罪に処される訳にもいかないのだ。

「…約束して…下さい…」

 ティアが繋いだユウリヤの手を持ち上げる。甲に吐息があたってくすぐったい。



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