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硝子の挿話

第12章 眷恋

「この場所へは…私以外と…来ないで欲しい…です…」
 怯えた懇願する瞳。唇がそのまま手の甲に触れた。
「…ティアも俺だけ」
 握り返した手を、強引に同じことで返す。


「約束…」


 ホッとしたと笑い、小さく頷いてみせたティア。抱き寄せて、寸分も離れないように、この大木の気根みたいに。ティアも迷わずにユウリヤの身体を抱き返した。
 互いの肌を伝う鼓動は、安らかな音を共鳴している。
 風と降り注ぐ光が、大木の葉から覗く空を見上げた。
 優しさが、今この場所に存在して、瑞々しさが溢れだすのを感じていた。
 永遠、それは互いの心の中にあるのだと思う。実感が『今』包まれていた。

「ここから見える景色は鮮やかですね」

 全体的に水耀宮の領土は、農業などが中心で、他の領土よりも緑が多い。広がる緑の絨毯は、青々と清い空気を作って、穏やかな匂いを薫らせている。
 心の中で、この景色をかきとめて微笑した。
「…このまま時間が止まれば…」
 いいのに…と夢物語を思う。
「そうだな」
 そのまま二人は黙りこんだ。
 ティアは『姫神子』の表情で周囲を眺めている。会話は途切れてしまい口数は消えてく。

「………祠堂、行くか」

 そう言った瞬間見せた顔は、本当に嬉しそうで、一気に伸びた距離を取り戻したいと、無意識にその細く小さな肢体を抱きしめた。
「ユウリヤ…?」
「………」
 顔が近づいてくると、ティアは恥かしさで伏せた瞳を、嬉しさで少し薄目をあけてユウリヤの口付けを待った。

「………」

 触れあう唇と吐息。
 甘さがするりと入り込み、互いを確かめ合って離れた。
 一瞬が、永遠と思える幸せは胸に広がっては、優しさに変化して全身を駆け巡っていく。
 照れて笑うティアの頬に、軽くだけ触れた唇が離れると寂しさに似た感情が少しだけ流れた。
「じゃ、行くか?」
「はい!」

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