テキストサイズ

硝子の挿話

第1章 夢幻

 かつて平和をシンボルとし、豊穣な土地の中で生きとし生けるものは公平に、幸福の中にあった。
 年月が経ち、やがて綻びから見え隠れする暗闇がその支配を広げていく。闇に迷走していく愚かな生き物は、欲にまみれ、その汚濁は腐敗臭をまきちらしていた。
 秩序という決まりさえも、…意味を失くしだす。そうしてどす黒い瘴気を纏い、文明の花を腐らせていくのだ。


 そこに、神が愛した楽園の姿は―――ない。


 生きている人々は少数支配者の利己的権力拡張の為に犠牲となり、度重なる重税に苦しむが、支配者は薄笑みに下を見下ろすだけだった。

 時代の流れが。

 発達する科学が。―――神の怒りに触れた。
 恵みを与えるはずの太陽が、黒い毒素を注ぎ込む。口を開いた聖なる山から吐き出されるのは炎の土石。大きな悲鳴をあげて震える大地は、逃げ惑う人々をあざ笑うかのように呑み込んでいった。
 美しさを称えていた海原は黒く澱み、大きな壁のように見えた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ