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硝子の挿話

第13章 約束

 小さなことを素直に喜べる。それはとてもティアのいい所であると同時に、それが他の神官や巫と反発してしまうところだと思った。
 権力は人を変えてしまい、欲は無限に沸いてくるヒトの業だ。
 浮いてしまうのも、煙たがられるのも、その純朴さだとユウリヤは苦笑を微笑にかえてティアの頭を撫でた。

「どうしたのですか?」
「ん?いや…可愛いな、と思って」

 無意識にしてしまったんだ。そう繋げると、ティアは納得したのか頷いて、次の店へと蝶が花の間を縫って飛ぶように、街道を進んでいく。
 このまま真っ直ぐ行って、小さな川に掛かる橋を渡る。路地が入り組んだ居住区に出て、その先に進めばティアの目的人物が生活をしている祠堂へと出る。
 ゆっくりとした足取りで行くと、太陽の傾きが西日を呼び込むことになる。
「ティアは大丈夫なのか?」
「…難しくはあるのですが、まだ何といって挨拶すればいいか………」
「迷っているのに、行きたいって?」
「駄目、ですか…?やっぱり」
 しゅんと肩を落とす。捨てられた子犬みたいな目で、ユウリヤを見るからたまらない。
「だからなんでそんなに可愛いんだ、お前は…」
 思わず背後に立っていた木に寄りかかり呟いていた。

「ユウリヤ?木とお話しているのですか?」

 それはティアだけだ。と言いたいのをぐっと飲み込んで、ユウリヤが先に一歩を出た。
「行ってから考えればいい、挨拶だけしておくつもりで会えばどうだ?」
「あ!」
 腑に落ちた。
 そんな表情で幾度も確かめるみたいに頷くティアに、ユウリヤは肩に入っていた力が抜けてしまう。
「抜けているな…」
「抜けてません!失礼です!」
 一気に体内温度を上げて怒るティアには、どうやら禁句だったらしい。ユウリヤはしまったとも思ったが、拗ねた横顔を見るのもいいな。とかちょっと考えてしまっている自分を知る。

「俺が悪かった」
「本当にそう思ってますの?」

 じっと反省を確かめる。まるで母親の仕草でユウリヤを見上げるティアの耳元で低く。
「反省しているから」
「うぁ…っ」
 囁かれる耳を押さえて、ぶんぶんと首を横に振りながら、背後に汗を飛ばして退く。
「聞こえなかった?じゃあ…」
 もう一度、と一歩近づくユウリヤの胸を手で止める。縦に二度首が振られた。
「分かりました!…認めます」

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