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硝子の挿話

第13章 約束

 真っ赤になって、自分の表情を必死で隠そうとする。
「それはよかった」
 ぷっと吹き出すのだけは我慢する。間違ってしてしまえば、この先ずっと怒ってそうな気がしたから。





 甘えてきている。その全身を預けて信頼を向け始めているがユウリヤにも分かった。
 以前までと、また少し違ってきている姿こそが、本来のティアなのだろうと推察する。
「あそこの角を曲がったら、神官が住む祠堂だ」
 ユウリヤが指すと、朱銀に塗られた屋根が見えた。
「ユウリヤはどうします?私多分、長くなると思いますので…」
 待ってて欲しい。その一言が上手に容を作れない。零れて落ちたのを拾うことも出来ずに俯いた。
「待っててやる」
 肝心な言葉を濁す。言えば相手の気持ちを殺ぐのではと、常に周囲に気を使うことを強いられて育っていた。

「はい!」

 それぐらいならば我儘ではないのに。お願いと我儘は紙一重で大違いだ。ユウリヤは祠堂の前まで来るとティアの背中を押した。

「いってこい」
「いってきます!」

 嬉々と目を輝かせる。真っ直ぐに進もうとする瞳は、少女を脱いだ―――毅さが宿っていた。
 中に入っていくのを、扉が閉まるまで見送ったユウリヤは、一度宿に戻り楽器を片手に戻ってくる。
 広い敷地には、親を亡くした子供や事情で育てられない子供を、預かっている宿舎がある。
 中央には広場があって、昼間は市民にも開放されていた。
 たまに、ユウリヤは此処で曲を奏でる。緑と流れる小川ともいえないほど小さな溝に流れる水音は、囁きほどの心地がよかった。









 祠堂の中は陽光が差し込む面だけ光が注ぎ、室全体に灯りはない。ティアは一歩を踏み出し、中に入った目的の相手を探す。
「………」
 講堂へ勝手に入って良かったのか、今更ながら怖気つく。お忍びでなければ、何かと理由を間に会えない相手でもあって、ティアはずっと長い間、直に会って話をしてみたいと思っていた。

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