テキストサイズ

硝子の挿話

第13章 約束

「いえ、外で待っていただいております」
 ようやくいつものように笑えた。
「そうですか、ならばよいのですが…どうぞ」
 側にある長椅子にティアを招き座らせると、反対側にサイバスは座った。
 手紙のやり取りは多いほうであったが、改めて初めて会う相手にティアは若干緊張している。彼が醸し出す空気が、緊張を促していた。
「いつも本当にありがとうございます」
 最初に会ったら、絶対に言おうと思っていた所から話を切り出すしかない。ティアは深呼吸を繰り返す。
「………いえ、祖父から貴女を援助するように申し付かっておりましたし、それ以前にこのように可愛らしいお嬢さんに優しくするのは男として当然のこと………また寄せられる内容が、不適切であると判断したのでしたら、街を壊すような政策を私は拒絶しました」
 誇らしげに語る。ゆっくりと説き聞かせる声は、重く柔らかかった。
「私が無力であるばかりに、本当感謝しています」
「無力なら私を動かす真似など出来ませんぞ………貴女が持たなければならないのは、自分を信じること。自信を持ちなさい」
 少し待つように言って、サイバスは奥へと戻っていく。今の間に緊張を解そうと、強く鳴る心音を抑えて浅く深く息を吸い吐き出す。
 少し落ち着いてきた。
 彼は的確にティアに足りない部分を見事に見抜き、指摘が出来る。鋭い観察眼をサイバスは持っていた。
「頑張ります…」
 協力者を募らなければ、貧富の差はどんどん増していき、格差社会になってしまう。そうなってから手を差し出したとしても、零れる命はひとつやふたつではないだろう。
 刻まれる数は命の数であることを、忘れてはいけない。常に胸に刻んでいる言葉を、ひとりで繰り返した。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ