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硝子の挿話

第13章 約束

「学べれば執行される法を、民衆は読むことが出来ます。書かれた文字の羅列だけでは、届かない。帳簿を誤魔化され大切な年貢の横領も減ると思います」

 文字を読めることができれば、水晶を使い伝播される放送では不十分な分を、文章で記して公開すれば理解する範囲も増える。
 数字にしても理解できれば、板に記される数の違いで、民衆は横領された事実を伏せられ、泣き寝入りを強いられることも減るというのがティアの意見だった。

「文字や数字の読み書きは、基礎でしょうが…基礎を学べない相手から私たちは年貢を納めてもらうのですもの………可笑しいと思うのです」





 神官の一部がこの案件に難色を示す理由も、おそらくその辺りにあるとティアは思っている。けれど証拠がなければ、横領も課税も咎める真似が出来ないのが事実だ。
「民衆に自己防衛の一環として、姫神子は通したいのですな」
「はい」
 泣きながら訴える相手を、ティアは小さな頃から見ていた。
 その度に自分の無力さが、悲しくて腹立たしかった。
 あの頃のティアはまだほんの幼い少女でしかなかったことが、とても悲しくて。早く大人にならなければと思って日々を過ごしていた。

「けれど私だけでは世界を創れません………私はとても弱く、そして臆病ですから、沢山の力が欲しいのです」

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