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硝子の挿話

第13章 約束

 格差社会が生み出す末は、不平不満が爆発してしまう恐れがあること。一人では何も出来なくても、人は集い団結することが出来る。絶対『悪』が目の前にあるのなら、潰してしまえばいいという考えに達しないとも限らない。―――ティアが知るこの緑と蒼に挟まれた世界は、火の赤に呑まれ消えていく。
「暴力や殺意は大切な何かを削ったり、失くしたりするだけだと思うんです」
 憎しみの応酬は、より大きな殺意に支配されてしまう。それでは何も終わらないし、何も残らないではないかと続けた。
 争いはどんな小ささで生まれても、一度解き放たれてしまえば自我がうねり、誰も止められない。それでは繰り返してしまうだけだ。

「私はこの先も続いていく命に対する責任がある…」

 誰が認めなくても、国を守る水姫神子と星見が選んだ時からティアの宿命は決まっていた。
 それから目を背けても、誰も守れないし自分自身の存在価値は消えるだろう。
「10年先、50年先、100年先へと続いていく日々を………少しでもいいから守る力になりたい」
 微々たる力だとしても、動けずに臍(ほぞ)を噛むだけなら。ティアは自分の価値を見出せない。
「偉そうなことを言っている自覚はあります………けれど今出来ることをしたい」
 生きている限り、心音が鳴り続けるし、世界は心音が消えても動き続ける。だったら世界に何か関わりたい。
 人と神の間にティアの魂が生まれたのなら、それが水姫神子に選ばれた理由だというなら、民衆の嘆きを受け止めて。考えて考え抜いて、最善の方法を編み出すこと望まれている筈だ。

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