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硝子の挿話

第2章 刹那

「? …ちー?」

 反応を無くして硬直させた千尋は、大きな息を呑もうとして、出来ず。
 ただ口元を覆い隠してうろたえだした。







 打ち寄せて返すさざ波。
 大きな太陽が地平線を赤く染めながら沈んでいく。

 潮風に自分の長い髪が揺れる。

 くっきりとした影が、自分に被さって。



 忘れたことが出来ない―――その残像。



「………ぁ」
 それは幾度も強く否定しながら、千尋が胸の奥で信じていた幻。フラッシュバックというのが一番わかりやすい感覚が、背後から一気に襲いかかるみたいに千尋を飲み込んだ。
 まばたきすら忘れたように、時間の経過を続ける。不審を感じて、その視線を追いかけ、ふいに千遼が席を立つ。

「あ――っ!」

 丁度、千尋の視線に逢うようにコーヒーを飲んでる二人組をみつけた。
「嘉貴(よしき)に由南(ゆいな)!?」
 手を振り、そのまま立ち上がって近寄って来る。相手のひとりは千遼の恋人だ。
 顔を何度かあわせているから、顔見知り程度にはなっていた千尋が、慌てて会釈した。
「妹の千尋だよ。こっちは小田切由南。」
 千遼の恋人の隣りにいる。ぼんやりとにじむ視界の果てで、揺らめいく。
 思わず千遼の陰に隠れた。
 それでも視線は、小田切由南を、意味も分からず見ていた。
 心臓が全身にあるようで。目を開けているのも苦しいのに、瞳は反らす事を、本能が拒んでいる。

「千尋…?」

 千遼に腕を引っ張られ、自分が遠い景色に、溶けていた事を知る。一瞬にして赤面すると、もう羞恥に顔を上げられない。

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