テキストサイズ

硝子の挿話

第13章 約束

 だからどうか、落ち込まないで、笑って下さい。サイバスは落とした肩に、軽く手を添えて言った。





「………」
 そんな言葉を聞ける日が来るとは思わなかった。―――正直、こんな言葉をかけてもらえるなんて、絶対ないと思っていたのに。
「…『絶対』なんて言葉はないのだと、今知りました。サイバスの信頼を裏切らない為に最善の努力をします」
 胸元を押さえて顔を上げて笑う。まだたった一人だが、そのたった一人を得られた。
 同じ土壌に住む、同じ世界の他人に認めてもらえる。その事実はティアを勇気づけた。

「今日は来れて本当に幸せでした…トーボイ殿も、またお話をお聞かせ下さいませね」

 立ち話で話せたことはとても短いのに、内容は厚く胸を揺さぶる。太陽が沈む前に戻らなければならない。歩いてだと少し時間が掛かる。
 指に嵌めこんだ迎えの合図を示す光が、黄色にゆっくりと点滅していた。
「もうお時間がないのですね、残念です」
「本当残念だけど、また来いよ」
 身分の分け隔ては、彼には関係ない。その触れ合う仕草は、忘れかけていた記憶の断片を、懐かしく思い出せた。
「ありがとうございました、とても有意義な時間を過ごせました」
「送りましょうか?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ