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硝子の挿話

第13章 約束

 深く一礼するティアの肩をサイバスは止める。目を上げると首を左右に振っていた。
「ありがとうございます…けれど、迎えも途中から来ますから」
 意外とこういう格好で歩くと目立たない。元々目立つような華やかさは、ティアに欠けていることだ。
 扉まで二人が見送ってくれると、ティアは大きく手を振るトーボイに、返す手を小さく振りかえして表の柵までを歩いて行った。
 何度も何度も振り返る度に、手を振り続けてくれる影。年上であるのに、年齢よりも幼い仕草が、可愛いとさえ思ってしまった。
 音が止んだのをティアは知る。門へと戻ってくると、どういう経路で出たのか。ユウリヤは楽器を片手に、少しだけ息を切らせて待ってくれていた。
「走って追いかけてきて下さったのですね」
 染料で染めた糸で刺繍された小さな布で、ユウリヤの額に浮かんでいた汗を拭う。まっすぐにまじまじと見てくる視線に、少し赤くなる。

「得られたか?」

 問いかけは簡単明瞭で、ティアは小さく頷くことで返事とした。
「本当は今宵の評議に、お出で頂きたかったのですけど…流石に言えませんでした」
 苦笑と微笑との間にある笑みが、柔らかく広がる。ユウリヤはそっと頭を撫でて頷いた。
 別離の時間が、確実に近づいてくる。寂しさが伸びる影みたいだと足元を見て感じた。

「俺はティアを送った足で、返事を出しに行く」

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