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硝子の挿話

第14章 明言

 泣くしか出来なかった幼かったティアに、愛情と知識と誇りを教えてくれた恩師でもある彼に、少しだけでも報いたい。
 最期まで民を愛し、民と金を動かすことを嫌い、死後は水葬を選んだ。冗談めかして風葬でもいいと、笑って頭を撫でた優しかった面影。

「恩義を還す機会が参りました。どうぞ、私の本当の晴れ舞台―――空から、見ていて下さい」

 人は、死ぬと満天に輝く夜空を彩る星になるのだと、眠れなくて泣いた夜に教えてくれた。
 消えた両親は、数多の輝きとして、ティアの眠りを守る為に輝いている。そう教えてくれた横顔は、星明かりの下でとても優しかった。
 その表情を瞼に浮かべて笑う。
「笑えて、ますよね…?」
 多少強張っているのは、否めないが。笑えるか笑えないかで、余裕は変わってしまう。

「大丈夫です、…負けません」

 ぐっと拳を握って自らを鼓舞(こぶ)する。弱く泣いてばかりの日々とは決別して、新たな一歩を踏み出さなけなければならない。気概は毅く、尊く愛情に満ちていなければならない。
 沈殿した濁りを透き通った色に戻すこと。次の世代へと渡す世界は、幸せに満ちていますようにと願う。
「ティア様…」
 巫の中では穏やかで、美麗さ故に神殿外部からの推薦を受けて入った娘で、ヒリッシュという。
 ティアよりもひとつ年上で、内部抗争には見向きもしない。

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