テキストサイズ

硝子の挿話

第14章 明言

 中立を保つ立場に立っている。勿論、右にも左にも傾かないその精神は、とても毅く孤高な印象をティアは受けていた。
「お時間になりました…他の巫は退出したので、私がご一緒します」
 少し低い声は、落ち着いて見える。恐らく他の巫が退出したのは、ティアへの反抗だ。ヒリッシュとは執行する場が違うので、時折顔をあわせることがあっても話したことは少ない。
「私の為にご足労をかけます」
「いいえ、これもお仕事の内ですから」
 にっこりと笑う姿は、ティアも溜息が出るほどに美しい少女だ。まっすぐな背筋と、視線は揺るがない。

「ありがとう…今、参ります」

 きゅっと一瞬だけ唇を噛み締めると、姫神子の面を被せる。
 臨戦態勢は解かず、想像する上で例えるなら水面。それも凪いだ姿を頭の中に描いた。
「…今日は雰囲気が少し違いますね」
 長く地面を引きずる薄絹を、ティアの頭部に巻く。正式な姫神子の出来上がりだ。
「違いますか?…」
「ええ、とても健やかな感じが見受けられます」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ