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硝子の挿話

第14章 明言

 長い回廊を曲がってたどり着くまでの間は、正装に着替えて歩くと長く感じた。

「司祭さまです」

 瞬間呼吸を繰り返す音。答える言葉を出すか、出さないかを迷っていたのを、ヒリッシュは『出す』ことを選んだ。
 この宮では司祭は常に一人だ。今司祭を引き継いでるのは、彼の息子であり、サイバスには父に当たる男。安穏とした性格ゆえか、常に疲れた笑みを浮かべているのを思い出す。
「一度考えて見てくれますか?」
「その前にあまり話したこともない私に、白羽を立てられたのは何故ですか、と聞いてたら答えて頂けるのですか?」
「………独り、では敵に立ち向かえないからです」
 あっさりと返ってきた言葉に、ヒリッシュは眉間を顰める。真偽が確かめられずに、手に持った薄絹を無意識に握ってしまったみたいだ。ティアが一瞬だけ視線を振り返らせた。

「信じられる、そう思ったのが答えです」

 簡単な言葉だが、重みはヒリッシュに届くだろうか。疑惑と魅惑、そして思惑が左右する中に閉ざされた濁りが、沈殿を続ける神殿という閉鎖した空間に、新しい風を招き世界。拡げる為に、一緒に築いてくれないだろうか。

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