硝子の挿話
第14章 明言
淡い期待と、叶うとは思えない諦めが混合した胸の内を、ティアは苦笑で示した。
「ヒリッシュの先の、子や孫までを巻き込む企画編成でもあるので、断られることも、覚悟がありますから………評議が終わったら教えて下さい」
青銅鏡の前で考えていた鬱々とした気持ちが消える。
「今日、一緒に歩くのが貴女であること、…嬉しいです」
扉の前に差し掛かっている。
ティアは薄絹を軽く翻して、ヒリッシュに満面の笑みを見せた。
『感謝することを、常に忘れてはいけない』
前司祭の教えが胸に蘇る。両手を胸元で握り、ティアは強く頷いた。
普段はとても温和で優しく、聡明であった前司祭。彼が厳しかった面は道徳や、倫理についてだけだった。
顔を上げれば笑みを浮かべ、両手を広げてくれた。どれだけ追いかけても、もう立ち止まってはくれない。両親と同じ場所に逝ってしまった。
夜空を見上げる。星は幾星霜の彼方から、自ら輝きを放ちこの地上を照らしている。この大空に広がる星のどこかに両親と、前司祭がいる。―――繰り返し聞かせてくれた。
『星が優しく光を放つのは、地上に残した愛しい者をその光で見守るからだよ』
扉の前で深呼吸を繰り返す。夜空に数多輝く星を見て頷いた。
《見ていて下さい、どうか》
強く心に思い、閉ざす瞼を開く。
《星見に選ばれたという誇りを胸にすることが、生まれて初めて出来る様を》
《見守って下さい、どうか》
《後ろばかりを眺めて、助けて欲しいと、伸ばされた腕を取ることも出来ず、ただ悲嘆に暮れて終わる日々を、今日打ち破ります》
誓いと願いと祈り。
それら全てを抱きしめて、月を見上げた。
†
小さな銅鑼が鳴る。戦闘の開始を告げる音。ティアは静々と中央の台に上り、宝石が数多く埋められた豪奢な椅子に座った。
「ヒリッシュの先の、子や孫までを巻き込む企画編成でもあるので、断られることも、覚悟がありますから………評議が終わったら教えて下さい」
青銅鏡の前で考えていた鬱々とした気持ちが消える。
「今日、一緒に歩くのが貴女であること、…嬉しいです」
扉の前に差し掛かっている。
ティアは薄絹を軽く翻して、ヒリッシュに満面の笑みを見せた。
『感謝することを、常に忘れてはいけない』
前司祭の教えが胸に蘇る。両手を胸元で握り、ティアは強く頷いた。
普段はとても温和で優しく、聡明であった前司祭。彼が厳しかった面は道徳や、倫理についてだけだった。
顔を上げれば笑みを浮かべ、両手を広げてくれた。どれだけ追いかけても、もう立ち止まってはくれない。両親と同じ場所に逝ってしまった。
夜空を見上げる。星は幾星霜の彼方から、自ら輝きを放ちこの地上を照らしている。この大空に広がる星のどこかに両親と、前司祭がいる。―――繰り返し聞かせてくれた。
『星が優しく光を放つのは、地上に残した愛しい者をその光で見守るからだよ』
扉の前で深呼吸を繰り返す。夜空に数多輝く星を見て頷いた。
《見ていて下さい、どうか》
強く心に思い、閉ざす瞼を開く。
《星見に選ばれたという誇りを胸にすることが、生まれて初めて出来る様を》
《見守って下さい、どうか》
《後ろばかりを眺めて、助けて欲しいと、伸ばされた腕を取ることも出来ず、ただ悲嘆に暮れて終わる日々を、今日打ち破ります》
誓いと願いと祈り。
それら全てを抱きしめて、月を見上げた。
†
小さな銅鑼が鳴る。戦闘の開始を告げる音。ティアは静々と中央の台に上り、宝石が数多く埋められた豪奢な椅子に座った。