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硝子の挿話

第14章 明言

 大きな鏡が掲げられ、月の光を取り込むと、周囲は仄かな明るさが広がった。
 神殿で唯一、古代の形を継続している場所は、篝火や太陽熱や光を利用していない。二人ずつの人間が持つ、大きな青銅鏡を使い、室に明るさを取り入れる。
 青く浮かび上がる白磁の柱。天上に描かれた文様の中央には、水耀宮の海神。化身であるイルカの姿が、象徴として描かれている。これは各宮殿ごとに奉る神は違う。太陽宮はそのまま太陽であり、描かれた化身は大鷲である。月空宮は月を奉るので描かれた化身は狼だ。
 静まり返るまでを、ティアは黙って待つ。騒々しさの裏に見える陰湿な心。
 銅鑼が鳴り全て静寂に戻るまで、神子や巫は口を開いてはならない。そういう掟があるので、どれだけ騒がれようが瞳を閉じて、時が来るのを待つだけだ。
 この方法は、時の神子や巫をどれだけ、支持するかによって変わる。神官たちにとって大切な主であればあるほど、静まり返るのが早い。
 恐らく歴代で考えても、神官家系の巫でなく、星見に選ばれた神子がつくことは珍しい。巫が最上につく場合、縁者である神官が、実質の権利を全て有する。その為外部からの神子誕生は、神官たちにとっては邪魔であり、目の前のたんこぶでしかなかった。
 だからこそ口や、直接ではない嫌がらせに、ティア自身の命を脅かそうとする輩がいた。

 神官の総勢は変動が多少あるが60名。今日の為に色々な赴任地から、この水耀宮大神殿に集った。





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