硝子の挿話
第2章 刹那
由南は一瞬瞳を見開き、そっと視線を反らした。
「ハルちゃん…私、夕食を真夜姉さんに頼まれてますから、先にお暇を頂きますね」
膝に置いてた鞄を抱いて、ゆっくり立ち上がる。
「お二方と楽しんで来て下さい」
これ以上この場にいて、自分のせいで、愉しさをすりへらすような真似だけはしてはいけない。
ことさら明るく笑った。
その笑顔は全てをはね付けるほど、ある意味追求を許さない。
「…俺も帰るっ」
慌てて盆の中に飲み干したコップを置いて、千遼が立ち上がる。
「大丈夫ですよ。一人で迷うと言うこともありませんし…まだ夕刻ですからね」
その盆を受け取り、返却カウンターに運ぶ。
残された千遼は苦笑して、椅子に座りなおした。
「………」
千遼は戻ってきた千尋の腕を、軽く掴む。
「どうしたんですか…?」
「………」
捕まれている腕と、千遼の表情を見て不思議そうに首をかしげる。―――言葉にない拒絶をふいに感じた。
「俺が送る」
千遼の不安を拭うように由南が立ち上がった。
「だから嘉貴は千遼を送れ、それでいいだろ?」
二人が恋人なのは知ってるらしい。千遼がそれでも不安そうに千尋を見上げる。
「私、方向感覚はありますよ」
何をそんなに不安そうに見ているのか。安心を与えようと、更に笑みを深めて笑った。
「でも…」
まだ不承不承で、何か言葉を出そうとする千遼に千尋は苦笑した。
「じゃあ、送ってもらいますから、ハルちゃんは話していてもいいじゃないですか?」
恋人を見つめる嘉貴の視線は柔らかい。その気持ちがどれだけ深いか解る。
恋人同士が互いに向け合う瞳に、見える情愛。
「俺じゃ、信用の値は足りない?」
すかさず由南が追い討ちを、千遼にかける。憮然とした態度だが、その眼差しは優しかった。
まだ納得していない千遼は、由南をみて千尋を見る。
「メール送りますから…」
どうしたら納得してくれるだろうと、時々鋭い感覚を放つ同じ顔を千尋は眺めていた。
「…ね?」
必死で許しを請うみたいに、千尋は背後に汗を飛ばす。まだはれてないらしい千遼は、渋い顔のままだ。しかしそれでも数瞬後には笑って頷いてくれた。
「ちゃんと来ないなら、抗議文送るからな」
「ハルちゃん…私、夕食を真夜姉さんに頼まれてますから、先にお暇を頂きますね」
膝に置いてた鞄を抱いて、ゆっくり立ち上がる。
「お二方と楽しんで来て下さい」
これ以上この場にいて、自分のせいで、愉しさをすりへらすような真似だけはしてはいけない。
ことさら明るく笑った。
その笑顔は全てをはね付けるほど、ある意味追求を許さない。
「…俺も帰るっ」
慌てて盆の中に飲み干したコップを置いて、千遼が立ち上がる。
「大丈夫ですよ。一人で迷うと言うこともありませんし…まだ夕刻ですからね」
その盆を受け取り、返却カウンターに運ぶ。
残された千遼は苦笑して、椅子に座りなおした。
「………」
千遼は戻ってきた千尋の腕を、軽く掴む。
「どうしたんですか…?」
「………」
捕まれている腕と、千遼の表情を見て不思議そうに首をかしげる。―――言葉にない拒絶をふいに感じた。
「俺が送る」
千遼の不安を拭うように由南が立ち上がった。
「だから嘉貴は千遼を送れ、それでいいだろ?」
二人が恋人なのは知ってるらしい。千遼がそれでも不安そうに千尋を見上げる。
「私、方向感覚はありますよ」
何をそんなに不安そうに見ているのか。安心を与えようと、更に笑みを深めて笑った。
「でも…」
まだ不承不承で、何か言葉を出そうとする千遼に千尋は苦笑した。
「じゃあ、送ってもらいますから、ハルちゃんは話していてもいいじゃないですか?」
恋人を見つめる嘉貴の視線は柔らかい。その気持ちがどれだけ深いか解る。
恋人同士が互いに向け合う瞳に、見える情愛。
「俺じゃ、信用の値は足りない?」
すかさず由南が追い討ちを、千遼にかける。憮然とした態度だが、その眼差しは優しかった。
まだ納得していない千遼は、由南をみて千尋を見る。
「メール送りますから…」
どうしたら納得してくれるだろうと、時々鋭い感覚を放つ同じ顔を千尋は眺めていた。
「…ね?」
必死で許しを請うみたいに、千尋は背後に汗を飛ばす。まだはれてないらしい千遼は、渋い顔のままだ。しかしそれでも数瞬後には笑って頷いてくれた。
「ちゃんと来ないなら、抗議文送るからな」