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硝子の挿話

第2章 刹那

 しぶしぶとしかないような声。それでも納得したなら、大丈夫だと由南と二人店を出ることになった。
 一緒に歩いてても会話らしい会話など、出来ない自信ならあるのだけれど。………
 それでも取り合えずまっすぐ駅へ、向かう為にアーチをくぐる。その場の勢いとは言え、千尋は初めて兄弟以外の異性と二人肩を並べて歩いた。




 少し前を歩く。
 影が伸びて寄り添う。
「あの…平気ですから……」
 緊張して言葉が小さくか細く途切れかける。振り返る由南の向こう側では夕日が沈む間際の紫にもにた紅連が広がっていた。
 記憶が一瞬の逆光にあおられる。何か遠かった景色が、今、この場で襲いかかる感覚。
 波が浚い流そうとする錯覚。
 その眩暈にあおられて、耳鳴りまで聞こえてきそう。




 重なり合う―――影。



 言葉にならない感情の、激流に呑み込まれる。






そう
 
確かに

こうして

誰かが

…………振り返った。









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