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硝子の挿話

第15章 暗夜

「気をつけて下さいね…」
 心の底から願う。サイティアは既に一足先に神殿を出ていた。
 本来であれば、一番側に居たいだろうがティアの身はヒリッシュに任せて、願いを叶える方に向かったのだ。

「ああ、そういえば………凱旋するはずの船が着かないとかで、上が揉めてました」

 礼節を崩さずに、タルマーノが言うと、ティアはじっと不安を胸に隠すように構えたまま、海を見続けた。
「…キュルが…顔を覗かせない……」
 深さがあるのはこの岩場で、いつもここに顔を出しているキュルが見えない。

「キュルっ!」

 いつものように、岩場に座り海水へ両足を下ろして水を蹴るが、静まり返ったような海からは反応がない。
「…もしかしたら…何か海底で異変があったのかしら…」
 ずっと向こうに見える水平線に、かかる黒い暗黒の雲。ティアの心に触れて現れた訳ではない分、―――胸騒ぎがする。

 それは思うよりも大きく気持ちを侵食していた。

「とりあえず…今日はもう戻りましょう…きっとキュルは忙しさの邪魔をしない為に顔を出さないんですよ」
 そう言ったタルマーノの声も、若干ぎこちなく硬い。

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