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硝子の挿話

第15章 暗夜

 不安は胸をしめあげるが、明確な答えは、それで得られるはずも無い。
「………そうで、…すね…」
 ティアは不安に後ろ髪を引かれながらも、その場を後にした。






「無事で居てください…」


 海に住む神に、小さな頃から遊んでくれていたキュルの無事を心の底から祈った。
 そして車に乗り込む前に、一度だけ振り返る。その光景がいつもより鮮やかに、瞳の奥へ焼きつくみたいに記憶された。
 どちらにしろ、祭りが終わるまでは、この場所にティアは訪れることは出来ない。執務の他にも、舞台で舞う為の衣装合わせから、当日に舞う為の最終曲合わせがあるのだ。
 約束通りに彼は、今回の星祭の奏者として名を上げた。
 ユウリヤに会えるのは、とても嬉しい。だが二人とも舞台の上では他人に過ぎない。それが二人が選んだ恋愛の約束である以上、一方的にティアが破る訳にはいかない。
 会えない日々よりも、絶対にいい。
 思いを別に向けると、ティアは恐ろしい何から逃げるように車へと乗り込む。―――感傷が、こんなにも場面を鮮明にするのだろうか…。

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