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硝子の挿話

第15章 暗夜

 その夜には、二重の意味を持つ太陽招来の祝詞が掲げられる。うなされた夢の実現が、脳裏を過ぎってしまう。
 ティアは為政者としてではなく、姫神子としての仕事を優先させた。
 ただ『神罰』が訪れないことを、心の底から祈る。

 純真な祈り―――。


 不安は誰の元にも水平に、笑みさえも浮かべて忍び寄ってくるものなのか。
 書類を片手にサイバスは、街の治安の為に残してきた従兄弟を思う。隣でヒリッシュも資料と向かい合い的確な指示案を出していた。





 月空宮では帰還する筈の船が戻らず、太陽宮にある霊峰に掛かる闇。水耀宮では地光り、海光りといった現象が報告されている。 
「困った事態になったな…」
 ぽつりと洩らされる言葉に、ヒリッシュは無言で頷いた。
水耀宮の神殿は新しく、空白から残る太陽宮のような強度はない。

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