硝子の挿話
第15章 暗夜
祖父が望んだ零地点へ、ようやく立つことが出来たというのに。下地を重ねてこれからという確信を得た日が、酷く遠くに感じられた。
突然現れた各地の現象は、異常としかいいようがなく。他に報告されている中で、動物達の異変だった。
今は夜中だというのに、鳥が騒いでいる。夕暮れぐらいから、この格子へとぶつかる烏も多い。家畜たちも忙しなく動いているという。
「願いを神は聞いてくれるだろうか?」
「俺に聞かれても、本当に困ります」
「お前…本当に可愛げがないな…」
苦笑しながら被害報告を纏めた板で扇ぐ。ヒリッシュは表情ひとつかえずに言葉にする。
「そう育てられましたから、誰かさんに」
「………そうか」
「そうです、口を動かす余裕があるのなら、数を読み上げますから書き込んで下さい」
平淡な口調は変わらず、教えることを砂が水を吸うように吸収していく才知を、サイバスは買ったからこそ男巫として、育てたつもりが予想以上に美貌が勝ってしまっていた。
「お前が本当に女だったらな」
「口はいりませんから」
ぴしゃりと先を封じるヒリッシュに、サイバスは冷たい子だと繰り返すが、ヒリッシュが読み上げる数字を書き込んでいく。
軽快な速度で軽い対話を繰り返す二人だが、それで少しだけでも芽生える不安をねじ伏せようとしていた。
しかし―――届かない。
突然現れた各地の現象は、異常としかいいようがなく。他に報告されている中で、動物達の異変だった。
今は夜中だというのに、鳥が騒いでいる。夕暮れぐらいから、この格子へとぶつかる烏も多い。家畜たちも忙しなく動いているという。
「願いを神は聞いてくれるだろうか?」
「俺に聞かれても、本当に困ります」
「お前…本当に可愛げがないな…」
苦笑しながら被害報告を纏めた板で扇ぐ。ヒリッシュは表情ひとつかえずに言葉にする。
「そう育てられましたから、誰かさんに」
「………そうか」
「そうです、口を動かす余裕があるのなら、数を読み上げますから書き込んで下さい」
平淡な口調は変わらず、教えることを砂が水を吸うように吸収していく才知を、サイバスは買ったからこそ男巫として、育てたつもりが予想以上に美貌が勝ってしまっていた。
「お前が本当に女だったらな」
「口はいりませんから」
ぴしゃりと先を封じるヒリッシュに、サイバスは冷たい子だと繰り返すが、ヒリッシュが読み上げる数字を書き込んでいく。
軽快な速度で軽い対話を繰り返す二人だが、それで少しだけでも芽生える不安をねじ伏せようとしていた。
しかし―――届かない。