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硝子の挿話

第15章 暗夜

 思い切った提案ではあったが、実現するには多少、難しい面がある。星祭は、水耀宮で執り行われることになっていて、二重の意味を持ってしまった祭事を、一宮で決めてしまうことは出来ない。特に今回の状態を神懸りと捻じ伏せた月空宮の対応が、予想以上に他二つの宮の首を絞めていた。

「民衆はティア様と月男(つきなだ)神子の能力(ちから)に奇跡を信じているのです」
「そんな…っ!だって私の能力にしても、彼の能力にしても、そんな天変地異を変える力なんてないです!」

 沈痛に瞳を反らすサイバス。唇を噛んで拳を握っている。彼も悔しいのだ。
「サイバス…」
「『時の船』を手配するのが、今私が出来る精一杯です…」
 最高の造船技師に造らせた神官や巫以上が乗る船。どんな荒波にも沈まない為の、工夫がされたアトランティスに三隻しかない中型船。
 今日から丸三日をかけて、神子や巫達は、祈りを体現するために踊るのだ。今回は前夜祭を踊るはティア。メイン当日は、太陽宮の巫が舞い、後夜祭は月空宮の神子が踊ることが決まっている。
「いざと言う状況が来ても、大丈夫な準備は着々と進めております。…三月ばかりの食料と、一部の動植物を地下に置きました」
 移動の際にいつでも利用出来るようにしていた制度が、今回役に立つ。民衆の大半は多かれ少なかれ船を持つ。繋げる準備も可能だと続けた。
「港に横付けされていますか?」
「水耀宮ではそのようにしてます。最高技師が造った船を数隻、それぞれ近場に待機させてます…」

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