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硝子の挿話

第15章 暗夜

 彼女はそれだけ言うと、恐らく自己投影と伝播を合わせた『影あそび』の術だ。ティアには出来ないが、ユアの妹であるユラには出来る術。―――緊急を、要しているとティアは判断した。
 星見の動きは分からないが、ユリシスも何かをしようとしているような印象を受けた。
 だからと言って今更呼びかけても、通じることはないだろう。危険を冒してまで訪れる意味は、恐らく最悪な未来に対しての退路だ。
 示された方角にある山は、浅い坑道が幾つか残る水耀宮の中でも地盤が固い、場所。
 早速ティアは急ぎ踵を返した。

「サイバス!」

 捲くれ上がるのが邪魔で、ティアは恥を捨て、膝に絡まる部分を両手で持ち上げて走る。辿りつくと勢いよく扉を開いた。
「………これはまた…」
 普段の楚々とした空気もなく、軽く呼吸を整えると、よどみなく指示を出した。
「水耀宮一高い山まで、急いで物資を半分流して下さい。海と陸近い方へ住民が流れて大丈夫なように」
 水耀宮は農業などの生産に力を入れている宮である。貯蓄庫には数年分の米や、腐らないように加工された食品がある。
「ティア様?」
「お願いできますか?」

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