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硝子の挿話

第15章 暗夜

 踵を返して進んだ足が止まって振り返る。サイバスを紹介するつもりだというのは分かったが、現状では答えは見えない。
「今はなんとも言えませんが、ご一緒出来そうなら伺います」
「私ね、…誰かと食べる食事が大好きなのです」
 何事もなく前夜祭がすむことを願い、待っていると暗に伝えていると、解釈したサイバスは微笑というより、若干苦味のある笑みで返す。
「後、ひとついいですか?」
「なんです?」

「頑張れって言って下さい」

 少し前までは、その言葉を聞くと消えてしまいたかった。
 何をどう頑張ればいいか、分からなくて分からない自分を責めていた。
「駄目ですか…?」
 負けたくないと誓った夜を境に、ティアは無責任な言葉だと、耳を塞ぐのは止めた。
 自分は独りなんかじゃないと、ティアは知った。それは家族だけでは足りない『何か』。信頼や安息、泣き笑う感情を共有できる他人(ひと)が、出来て生まれた余裕。
 余裕をサイバスは喜んだ。左右に軽く首を振ると小さな笑みを唇の端に浮かべた。

「頑張ってください」

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