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硝子の挿話

第16章 素懐

 サミアの舞いは本人の性格だろう。とても機密で型が守られていた。

 四年前に一度見ただけだが、あれが最後になってしまうのは少しばかり残念だ。

 けれど新しい命を宿し、母となる道を選べるのは、同じ女としてとても嬉しくあり、微笑ましくもあり―――羨ましかった。
「僕は運動全般苦手だから……嫌だな、とくにティアの後だから何言われるかと思うと、今からどきどきする」

「大丈夫よ、ユアならきっと立っているだけで人は見惚れるわ」

 けらけらと笑い飛ばすサミアに、ユアはがっくりと肩を落とす。彼の容姿はヒリッシュと同じく。男性的というよりも女性的な麗しさがある。

「ぼーっと二時間も三時間も立ってられないよ」

 ユア本人はそんな容姿に劣等感を持っているらしいが、ティアにしてみたら、頭脳も優秀で容姿も端麗なのだから、ひとつぐらいは欠点があったほうが身近に感じれて好きだ。
「題して『彫像』…なんて、どう?」
 くすくすと笑うサミアはとても楽しそうだが、弄られるのはどうも苦手らしいユアは、手元の水を一気に煽った。

「世界が止まってます、って?」

 苦笑してサミアと言い合っているのを、ティアは静かに聞きながら呼吸と密かに暴れる心音を鎮めていた。
 他愛ない会話をしながら、後半に耐えられるように、果物を取る。甘さは疲れを癒す。
「疲れた?どう、少しは落ちついたかしら?」
 サミアの言葉に、軽く首を縦に振り横に振る。






「こんなにも楽しく踊れたのは、本当に久しぶりです」

 布で後から後から出てくる汗を、拭いながら答える。
「元気ねぇ…」
 羨ましいわ…そう言いながら、サミアも果物をつつく。三人の横でちょこんと座っているユラは、とっても楽しそうに頷いてたりしている。いつも室内に篭っているから、今日はいい気分転換にもなっていた。

 そんな一同を遠くから眺めている影―――ユウリヤだ。

 その視線は、踊る前からティアにくぎつけだった。
 いつもはふわふわしたドレスのような服を着ているのに、今日は身体の線がはっきりとする衣装。

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