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硝子の挿話

第16章 素懐

 袖は長かったが、裾の短さに思わず照れてしまったのは、一生の秘密だと思っていた。
 今日はリリティアで踊るのかと、正直少し不安だった。しかしティアで舞う姿は、ユウリヤには嬉しかった。
 触れ合うことが出来るのは、身体や唇だけではないだと、その喜びもまた強く。

 二人の視線が交差する。

 互いに瞳を細めた。
 秘かな淡さを持つ、信号を互いに受けて渡す。
「疲れが、心地いいです…」
 この世の幸せを全部抱えたようにティアが笑うのを見て、サミアがその方向を捕らえた。
「…もしかして恋人かしら?」
 そう聞くと、ティアは驚き、続いて恥ずかしそうに止まって―――頷いた。
 サミアたちみたいには、祝福はされない。
「素敵ね、愛する人の音と戯れることが出来るのは」
 小さく笑って言うサミアに、ティアは小さく頷いた。

「ごめん、ちょっと席を離れる」
 そう一言告げると、そのまま駆け出していく。彼が向かった先には騎士の仕事をしているハクレイの姿が見えた。
「私も少し失礼するから、ゆっくり身体を休めなさい」
 そう言うとサミアも席を立った。神官達が座る席へ向かって歩いていく。
 二人が欠けると急に静かになる。戸惑いを浮かべるティアに、ユラは愛らしい笑みを浮かべた。

「お兄ちゃんにお願いしてたの」
「え?」
「私ね、ティア様とお話してみたいって、二人でしたいって…」

 だからこそ、二人はほぼ同時に、席を外したのだと納得する。
 向かい合う二人の間に、静寂が少し横たわった。
 準備をしたものの、何をどう切り出そうかと考えているのだろう。上を向いて下を向いてしている幼い少女の両手をティアは握った。

「ゆっくりと話して、大丈夫ですからね」

 小さく笑いかけると、ユラもホッと胸を撫で下ろす。やはりユアとよく似ている。ホッとした時に見せる表情が同じだ。





 それを微笑ましいとも思う。ティアは肩に入っている力が抜けるのを、静かに待つことにした。
 こういう静寂は嫌いじゃない。どちかと問われたら、恐らくは好きな部類に入る。
「お兄ちゃん一人で出て行った?」
「いいえ、ハクレイ様とご一緒でしたよ」
 そう答えるとユラは、本当に嬉しそうに笑う。心底胸を撫で下ろす、そんな表現が似合う。

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