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硝子の挿話

第16章 素懐

 図書館で通って調べてみても、そういう記述はどこにも見つけられず、不可思議に二重になる感情が辛いと、ユラはしがみついて来た。
「私ね、ハクレイちゃんもお兄ちゃんも大好きなの、けど二人に向ける感情が、どっちの私が感じていることか分からないの………怖いの、自分じゃない自分が二人を知っているの」
 強い感情の波に攫われる。両手で顔を隠して、身体を丸めて涙を流すユラ。
 とても大人びいている。しっかりとした子だと、ティアは正直思っていた。

「それはとても怖いです、よね…」

 どういうことなのか、ティアにも分からないが。二つのせめぎあう感情なら、幾度か経験をしている。
「そうですね…二人に話すと、とても心配してしまいますから―――ユラちゃんが私に相談して正解、です」
 ただでさえ弱い身体をおしてまでティアに会いに来た理由。
 子供が経験するには辛く、切なかったのだろう。
 ティアが抱きしめるとユラは、一瞬だけびくりと身体を強張らせたが、すぐに甘えるようにしがみついてきた。





 星見は―――時空を巡る全てを見通し、知りたいことも、知りたくないことも。平等に受け入れる宿命があるのだと、現星見であるユリシスの前任だった星見と、親しい間柄であったという前司祭に聞いたことがあった。

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