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硝子の挿話

第16章 素懐

「きっと貴女は『星見』に選ばれる存在なのですね…」

 背中を抱きしめて、あやす様に撫でる。
「星見?」
「神子でさえも見えない世界と通じる力です」
「見えない世界?」
「私にも見えない世界、この先に起こること、ずっと昔を知ること、両方とも私もユラちゃんのお兄様も出来ないことなのです」
「それが出来るのが星見なの?」
 小首を傾げて聞くユラに、小さく頷いて見せた。
 寝付けない夜に沢山聞かせてくれた話のひとつ。星見について語ってくれた時に、想像して怖くなって泣いたことがあった。

「両方とも自分だと、感じているのでしたら受け入れて大丈夫なのです…怖いと思ったら、風に揺れる枝葉でも怖い」
「うん…私、病気じゃないの、ね?」
 それが怖かったのだろうか。ティアは抱きしめたまま、笑みを浮かべてひとつだけ頷いた。

「やっぱりティア様にお話して良かった…お父様にお話したらとても怒ったの………『馬鹿なことを言うな』って」

 二人の父親がどういう人物なのかは分からない。けれど反応としては理解が出来る。
「親は我が子を、普通に扱いたいのです」
 ティアの両親はそういう意味では柔軟だったが、キュルと友達になったと言ったことに対してだけは、理由も聞かずに『ありえない』と一言の断言で終わった。
 だから今度は、証拠を見せてみたら青ざめて私を怒った。

「もしかしたらお父上には、お父上の事情があったのかも、しれませんね」

 あんなに沢山怒られたのは初めで、反発してもっと勝手にした。―――結果が、今に繋がっているのだから、いつだって自分で道を選びとっていたのだろう。それを目の前の小さな少女が教えてくれた。
「お話を聞かせてくれてありがとうございます」

 自分自身を、振り返る機会に恵まれた。

「私自身もひとつ知ることが出来ました」
 頑なに断言をしたのは、信じられないのではなく。信じたくなったのだと。
 ティアが水姫神子の話を聞いたのは、神殿に上がって随分後に聞いた。
「何を知ることが出来た、の?」
 涙は止まっていた。それにホッと胸を撫で下ろすと、物語を聞かせるようにティアは話した。

「私の母も『ありえない』と言ったことがあるのですよ」
 自分がイルカの背中に乗って、遊びで唄ったことで、水姫神子になったという物語。


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