テキストサイズ

硝子の挿話

第16章 素懐

 話が終わるまでユラは静かに耳を傾けていた。
 大人になったら分かることも、子供間は純真さに、真っ向から言葉を受け取ってしまう。
 さり気無い一言にだって、大きな傷が生まれることもあるだろう。
 それは大人になって癒せることと、癒せないことの差となる。―――とても厄介で、切ない。

「ティア様は、水姫神子になって嬉しい?」

「今となっては、別の未来なんて想像も出来ないですが―――私はこの道を選んだことを、嬉しいと思えるようになりたいです、ね」
「私ね、………お兄ちゃんとハクレイちゃんの近くに居たい」
「ハクレイ様には止めて下さるようにお願いしたのですけど…『影あそび』はしてはだめです」
「………引き離される?」
 こわごわと聞いてくるユラに、ティアは覗き込んだ。

「かも、しれません」

 嘘は、お互いの為につかない。後悔を与えたくないし、『影あそび』の危険性は、健康であった一人の巫女の魂を剥離させてしまった。
「じゃあ、二度としない…私、お兄ちゃん達の側にいたいもの!」
 太陽に向かい咲き誇る向日葵みたいな、愛らしい少女の笑顔が戻った。

「お約束して下さいね」
「うん!」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ