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硝子の挿話

第16章 素懐

 かなり引きつっているとは思うのだが、他に反応の仕方が分からなかった。
「うま、うま…」
 本当においしそうに食べる。
 ティアも止まっていた手がバナナに伸びる。自由都市の王であるセツレイが差し入れしてくれた果物。太陽宮に差し入れがあるというだけあって、どう剥くのか見てティアも試してみた。
「うわぁ、とても綺麗に皮が剥けるのですね!それにサミア様とても手馴れてますね」
 同じ仕草であるのだが、ティアが一本剥いている間に、二人分をさらりと剥き終えている。
 その一本をサミアはユラに差し出す。
「ありがとうございますぅ!」
 嬉々として受け取って食べるユラに、笑みで返しながら次の一本を剥いてカラに差し出していた。

「私の近い未来、舅になる男性が好物だから、よく分けて頂いているのよ」

「えっと…それはもしかして…」
 バナナを渡すときにセツレイは、『大司祭の好物』だと言っていた。
 ちらっとカラを見る。サミアは薄く笑みを刷いた。
 カラの父親が大司祭だと言うことだ。どういう繋がりで二人は出会いをして、恋物語を綴ってきたのか、まじまじと興味が湧くのだが―――それはやはり二人だけの物語だ。
 好奇心で聞きたいと思うのは、いけないことだと、自分に強く言い聞かせるティアだった。

 そうこうしている間に、ユアが戻ってきた。

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