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硝子の挿話

第17章 漆黒

 二人ははやりティアにユラを預けると、腰に下げていた剣の鞘ごと叩きつける。ユアの剣は飾りがダイヤなのだが、鞘がオリハルコンで出来ており、ハクレイの剣は全てがオリハルコンで出来ている。





 身体を何度もこかせながら、男達は恐怖と限界に挑む。ほとんど四つん這いでユラが身を寄せているのを、サミアは肩から掛けられていた外套を被せた。

「三人で狭いけれど、我慢してね」

 かけてくれた好意に胸が熱くなる。けれどティアはそれを脱ぐと、改めて二人の上に被せた。
「お気持ちだけ頂きます」
 被っていては天井に亀裂が入った時に分からない。
「っ!」
 そう思った瞬間に亀裂が入り、天井の一部が落ちてくる。考えるよりも条件反射で、ティアがユラの身体を抱えて、横に跳んだ。
 いつの間に来たのだろうか、もうサミアを抱えて横に逃げていた影。
「無事です」
 短く聞こえる声に、ティアは頷く。ヒリッシュがサミアを守ってくれるなら、窓が割れるまでの間。ティアはユラを守るだけで済む。
 特別閲覧席は出口から一番遠い。群れの後に続くのでは手遅れになる。
 ゆっくりと天井が剥がれ落ちてくる。時間は刻一刻を競っていた。

 それでも、事前にサイバスや守備を任せていた騎士と、打ち合わせがあった分、最初こそは恐慌に落ちたが、今は順調に外へ出て行く影が見えた。
 少しだけホッと胸を撫で下ろす。危ないだろうと思われる箇所は、あらかじめ補強していたことが幸いしているようだ。
 人命の前に歴史だとか、色々は後回しでいいと、ティアが判断したことが良かったみたいだ。
 地鳴りが始まってから、随分たつが揺れは弱まったかと思うとまた強くなる。
 一体この大地の下はどうなってしまっているのだろう。ティアは側で抱きしめている少女の安全を優先すると決めた。

「大丈夫ですから、ね」

 かたかたと小刻みに震える幼い肢体は、全力で抱きついていた。
 あやす手も震えている。自覚はしているが、今は一刻も早く窓が砕けることを願うだけ。
「大丈夫です、…必ず…」
 生きようとする力を信じたい。こんな終わりなど要らない。そう運命に突きかえさなければならない。


 願うのであれば、誰ひとり欠けることなく。
 生へ道をともに、切り開き。
 この先へと向かい、進めるように。

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