テキストサイズ

硝子の挿話

第17章 漆黒

 力の限り。
 負けてなんか。

 いられないのだと、前を向いて歩いていく。








「ユラちゃんっ!」
「ユラっ!?」
「ユラァ!!」

 三つの声が重なる。髪を結わえていた飾りがないのに、気がついたユラは慌ててそれだけを取ろうとティアの側を離れた。―――その一瞬後の悲鳴。
 蒼白なユアと、ハクレイ。ティアはもう一度低く飛ぶ。
 ユラを抱きしめて、頭を庇いつつ転がる。その場所に象牙の天井が崩れ落ちて、床に刺さっていた。
 下手をすればユラの身体ぐらい簡単に、あの太い象牙で貫かれていただろう。ユラは完全に声も無くし、呆然と自失していた。

「感謝するよ…ありがとう!」

 にっこりと笑いながら、それでも手は硝子を割るのに集中している。ティアも流石に少し青ざめながらも「いいえ」と返すが、その声は届いているのかも分からない。
 大地の唸りが、完全に止まった。
 五回目の揺れになると随分小さく感じたから、硝子を砕く作業ははかどっていた。
 出口へ向かおうとする男たちの何人かは、窓を割る音に正気を取り戻し、手伝いに駆け寄ってくる。

 誰、ひとり欠けることなく。

「よっしっ!」
 ハクレイがヒビを入れた箇所を何度も殴り、サンに捕まりながら一枚目を破る。近くで作業していた硝子の二枚目も三枚目も砕いた。
「ユラっ!」
 血の気の引いた顔で、愛した相手の側に駆け寄り、抱きしめる。全ての危機は退いてはいないが、ユアは幼い妹を抱きしめて唇を噛み締めた。
 両手に握っている髪飾りは、今日の為にユアが水晶の欠片で作った品だった。

「これを取りに…」

「だって、これはお兄ちゃんが初めて私に作ってくれた贈り物だもの!大切、なの!!」
 絶対に失くさないと、ユラは寝るときも寝台に持ち込んでいた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ