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硝子の挿話

第17章 漆黒

「ユラ………」
 ぎゅっと強く抱きしめるユアを、ハクレイは肩を叩いて先へ進む。頷いて後を続いてユラも続いた。
「ティア様、…あり、が、とう」
 若干まだ声が固まっている。それもそうだろう。いっそ命を狙われているのではないかと思うほど、ユラに天井の欠片が降り注いだ。
 ユウリヤはティアを守るように、自分の上着をかけて、出口へ導いた―――瞬間、だった。
中にいた皆が、窓という突破口へ、意識を傾けた機会を狙ったように補強されていた柱に亀裂が入った。

「!」

 悪夢が現実に、なる。

 柱の一本が轟音を立て、まっすぐに落下してくるのを、通り越した衝撃に、誰もが瞳を見開き、速度が緩くなるのを感じていた。





 逃げられない姿を映す。
「あ―‥っ!」
 そう叫んだのは、誰か分からない。ティアも動けずに呆然と見ていた。
 最初に動いたのは、硬く目を閉じたユラを、瞬時に守ろうとユアの身体が無意識で庇う。

「チッ!」

 小さな舌打ちした影が、強く二人を突き飛ばし、柱の下敷きになった。
 護衛していたハクレイだった。

「―――」
「!」

 ユラを抱えたまま、ユアが振り返る。
「…っかっヤ…ロ!」
 駆け寄り、身を寄せ合う者同士が退かそうと試みる。―――しかし大きな柱は、ぴくりとも動く兆しがない。
「……内蔵…潰…る…も、…無、理だ…っ」
 大量の血液が、弾ける様を見た。こぼれ、流れている。
「は、…やく…に…」
 ごぼっと血を吐くと、そのままハクレイは息絶えた。
 虚脱と衝撃に言葉も出せず、上から天井が崩れ落ちてくる。

「グズグズしてたら死ぬぞっ!」

 その言葉に、ユアは放心しているユラを横抱きにして、窓から飛び出す。カラもサミアを抱き締めて飛び出した。
「はやくっ!」

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