硝子の挿話
第17章 漆黒
切実な悲鳴が最後に響く。最後まで待つティアの背中を、強く押した。
外は豪雨。
視界もまともに開いてられない。降ると言うよりも、これは叩きつけてくると言う方がふさわしい有様だった。
「ティア…」
確かに感じるあたたかさ。抱き締めた腕に力を込める。綺麗に整えられた髪も、美しく飾られていた衣装も、もう見る影もなかった。
誰も、口を開けれない。
終末から逃れようとしても、もう無理でしかないのか。ずぶ濡れになった肌は、冷え凍えだしていた。
誰もその事実に気が付いてない。今度いつ又、大きな揺れが来ないとも限らない。
心臓は飛び出しかねないほど、恐怖に戦慄し、震えが止まらない。
指先さえも感覚を無くして、震えが止まらなかった。
もう、足元から崩れていきそうだ。
「……」
誰もが数分前まで、言葉を交わし、笑うこともしていた場所の残骸を見ていた。
振り返ってしゃがんだ。崩れる瞬間、ティアの背中を強く押した指先が、広がる朱の中に落ちていた。
ヒリッシュも講堂と一緒に消えた。耳元に残る声はもう、肉声で聞くことはないのだ。
押された背中が痛い。
ヒリッシュと交わした会話も、ハクレイと話した内容も、今日はとても少なかった。
同じ場所に居たのに、―――すぐ近くに呼吸さえあったのに、掌から零れ落ちて消えた。
膝から下の力が抜ける。細い指先に飾られた指輪。
ヒリッシュの指先だけが、外の空気に触れていた。
全身を濡らす雨は、激しさを増していく。なのに動けず、感情の揺れを止めることも出来ない。
崩れた講堂を、見ていた。
「…うし、て……どうし…てぇ…っ!」
全身が痛い。ヒリッシュが押し出してくれた背中が痛い。
「立ちなさいっ!」
大きな声にティアはびくっと肩を震わせ、声がした方向を見た。
とても毅い眼差しで、サミアはお腹を押さえて座り込んでいた。
「立ちなさい…」
今度は静かな声だった。叩きつける雨の音に消えかけるほど。
外は豪雨。
視界もまともに開いてられない。降ると言うよりも、これは叩きつけてくると言う方がふさわしい有様だった。
「ティア…」
確かに感じるあたたかさ。抱き締めた腕に力を込める。綺麗に整えられた髪も、美しく飾られていた衣装も、もう見る影もなかった。
誰も、口を開けれない。
終末から逃れようとしても、もう無理でしかないのか。ずぶ濡れになった肌は、冷え凍えだしていた。
誰もその事実に気が付いてない。今度いつ又、大きな揺れが来ないとも限らない。
心臓は飛び出しかねないほど、恐怖に戦慄し、震えが止まらない。
指先さえも感覚を無くして、震えが止まらなかった。
もう、足元から崩れていきそうだ。
「……」
誰もが数分前まで、言葉を交わし、笑うこともしていた場所の残骸を見ていた。
振り返ってしゃがんだ。崩れる瞬間、ティアの背中を強く押した指先が、広がる朱の中に落ちていた。
ヒリッシュも講堂と一緒に消えた。耳元に残る声はもう、肉声で聞くことはないのだ。
押された背中が痛い。
ヒリッシュと交わした会話も、ハクレイと話した内容も、今日はとても少なかった。
同じ場所に居たのに、―――すぐ近くに呼吸さえあったのに、掌から零れ落ちて消えた。
膝から下の力が抜ける。細い指先に飾られた指輪。
ヒリッシュの指先だけが、外の空気に触れていた。
全身を濡らす雨は、激しさを増していく。なのに動けず、感情の揺れを止めることも出来ない。
崩れた講堂を、見ていた。
「…うし、て……どうし…てぇ…っ!」
全身が痛い。ヒリッシュが押し出してくれた背中が痛い。
「立ちなさいっ!」
大きな声にティアはびくっと肩を震わせ、声がした方向を見た。
とても毅い眼差しで、サミアはお腹を押さえて座り込んでいた。
「立ちなさい…」
今度は静かな声だった。叩きつける雨の音に消えかけるほど。