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硝子の挿話

第17章 漆黒

 ティアを震える指を組んで、纏う不安を一掃しようと、深呼吸した。

 そして目を開けて、立ち上がり―――硬直した。

「?」
 その反応に、ユウリヤも顔を上げ呆然とする。次々と連鎖反応が続き、再び声は奪われてしまった。
「…………」
 一同、同じ方向を向いたまま固まるしかなかった。



 北の空が真っ赤に染まっている。聖なる山が―――空に噴煙を吐き出し、火を噴出していた。
 流れる赤い、山の怒り。
 天上を覆う勢いで、灰色の雲を拡げていった。


 絶望がよぎった。


 雨水が溶岩流を撃つ。大量の水蒸気が空へ、たち昇る。
 ユウリヤはティアの挫けそうになった腕を捉え、無理矢理立たせる。居ても立っても居られなくて叫んだ。

「こんな所で死んでどうするっ!」

 少しでも生き延びなければならない。そう言ったのは―――ユアだ。
「ぇえ、そうね…」
 今だ蒼白な顔色で、気丈に返すサミア。半泣きになっているのはカラだった。
「ここまでは…来ないだろうけど…」
 カラは呟いた。
 太陽宮は間違いなく、消えている。空を覆う噴煙が距離のあるこの場所からみえるという事実に打ちのめされていた。

「蒸気に…」

 サミアがカラを抱き締めた。
「置いて行って…って…言いたいけど、あんた泣くから駄目よね?」
 蒼白だった理由が、サミアの手の動きで分かる。お腹を抑えていた。
「サミア…?」
「守ろうとしたけど…駄目みたい…」
 脂汗を流して、戦慄く唇。抱きしめているカラの手に温かい液。―――血液。

「…動けないの…今、動いたら…この子流れちゃう…」

 カラは蒼くなり、着ていた上着でサミアのお腹を包む。
「…って訳やから、悪いけど先行ってて…サミアの痛みが引いたら、後追うわ」
 考えられる時間はない。けれど二人の意志も変えれないのだと知る。

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