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硝子の挿話

第17章 漆黒

「分かった…」
 返事をしたのはユアだった。
「ごめんなさいね…」
 即座にユラを抱き上げて、ユアが高い場所に向かう決意に前を向いた。





「俺達も行こう」
「…あっ…ぁ…」
 流れる涙。感情のままに首を振った。何かが千切れていく音が、崩れていく音だけが鮮明に広がっていく。
「ひっ…ぇ…」
 ユウリヤはティアの腰に腕を回し、強引に前に続く。
「待ってくださいっ!!」
「待てないっ!」
「お願いっ!!」
 ティアが暴れてユウリヤの腕を解くと、まっすぐにカラとサミアの前にしゃがんだ。
 服の下から小さな袋を取り出し、それをサミアに渡す。
「何?」
「私たちの村では、生まれてくる子供へ、育つ子供へ贈るお守りなんです…」
「私が作ったから、とてもいびつな形ですが受け取って下さい」
 想い出を辿るように、合間を縫って作った。
「…ありがとう、きっとこの子も喜ぶわ」
 ティアの両手を握って、受け取ったお守りが入った小袋。開けると首飾りが入っていた。

「さぁ、いきなさいっ!!」

 こくりと頷く。彼らの姿を忘れることなく、唇を噛んで流れてくる全ての雫を、強く悲しく振り切った。
 何度も後ろを振り返りながら、ティアがユウリヤの元に辿りついく。振り返ったユウリヤがその目で目撃したのは、開いてしまった距離間での大地の隆起だった。
 ぐにゃりと地面が飴のように曲がり、大きな地響きと共に、再び大きな揺れが始まった。
 地面が波のように揺れている。
「ひっ」
 遠い場所から雷が落ち、地面を稲妻が走ったと思った瞬時、ティアの足は空を舞った。
「ティアっ!」
 どんな怖い思いをしようと、人間は無意識に生きようとする。すがりついた欠片にしがみつくのに、雨で手が滑る。
 しかし落ちれば、絶対絶命―――だった。

「下を見るなっ!」

 ユウリヤが叫ばなければ、自分の状況判断に下を見て、その光景に意識を手放していてもおかしくない。足場の無い場所で、腕の力に限界を感じても、ティアは渾身の力でしがみついた。
「…」

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