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硝子の挿話

第17章 漆黒

 近くの木に腰帯を巻き、自分の身体を固定し、ティアの腕を掴む。

 満身創痍の中で、まだ希望は捨てていない。

 ティアの身体は、年齢標準で見ても細い。大した力を使わずに抱き上げた。
 全身が軋んでいるのが分かる。振り返ると、何人か残っていた人々が亀裂に呑み込まれて開いた闇に呑まれていた。

「足が…」

 膝からがっくりと、力を奪われていたティアの耳に信じられない声が届いた。




「…ここまでだね」




 その声にティアは顔を上げる。





 ティアとユウリヤ。
 ユアとユラ。
 その間は1メートルぐらいの亀裂が横たわり、運命は皮肉な別れ道を築いていた。
 悠然とユアは笑みを浮かべる。

「最期まで生きなよ」

 その透明な笑みを戻して、毅然とユアは踵を返した。
 その腕の中で、ユラは意識を完全に失っている。
 ティア達は山へ。
 そしてユアが行く道は、海に繋がる分岐点でもあった。
「じゃあ又ね」
 そう言うと、ティアの悲鳴とも嘆きともつかない声を振り切り、一度も振り返らずに自分の進む道を歩いていくユアの後ろ姿を見送った。
 ティアの感情は、幾つも千切れていく。





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