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硝子の挿話

第17章 漆黒

《どうして、こんな運命を用意したのですか―――?》




 土砂降りの雨に、ぬかるんだ地を滑らないように、ユウリヤと手を繋ぐ。雨はますます酷くなっていった。
 涙と雨で視界は険しかったが、強く握ったユウリヤの手の暖かさが、ティアの中で小さな救いとなる。何度も泥濘に嵌り、足を滑らせ、裂けた大地の底へ引っ張られたかは解らない。

 ただもう、闇雲に生にすがる。

 いや、逃げていた。
 この現実から逃げられるのであれば、是か非でも逃れたい。
 大切だと思った人を失っていく。その哀しみは深くなるばかりだ。
 涙だけは尽きないのか、意識していない雫が溢れ続けていた。
「ドコまでも逃げよう…」
 国境が近い高台にある時計塔。既に非難してきた何人かの人間がいた。



 みんな憔悴していた。



 地獄絵図は、確実に終末を映している。終幕へただ急ぎ足で向かっていく…。
 聖なる山から吐き出されたのは、炎と煙だけでなく、石や灰までが降り注いだ。
 火山噴火は逃げ惑う人々を灼熱の流れに呑み込み、各場所から緊急派遣された衛兵達は、その場で命を奪われ、水蒸気として消えていった。…
 その中には、タルマーノやサイティアも含まれていて、彼らの全てを奪っていった。

 森に生息するあまたの命も、行き場を失い、運命を煉獄に遮られてしまう。

 そうして人々は聞き慣れない音に、放心していた心のままそちらをみた。
 遠い空から襲ってくる壁。
 それは海から来た壁だった。
 きっと海の底は、ひっくり返っていたのだろう。物凄い高波が、押し寄せてきた。
 ここは比較的に高い位置にあるからまだ届かないだろう。けれどあの場所で別れたユアとユラはこの波に呑み込まれて断絶していた。―――全ての民衆を生かすために残って、指示をしていたサイバスやトーボイさえも。
 人々は此処さえも危険だと判断し、より高台を目指し、上に上がっていく。

 一刻の安息も許さない。



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