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硝子の挿話

第17章 漆黒

 冷たくなり始めている身体に、少しでも体温を分け与えようとユウリヤは強く抱きしめる。

「わた、し…ね、…」

 水耀宮の一番の秘密をティアはユウリヤに告げた。
 星祭が何故、水耀宮でしか行われないか。
 誰も疑問には思わなかっただろう。ティア自身、死の床にいた前司祭に聞くまでは知らない事実だった。
 自分の頭に異物が埋め込まれているなんてことを。―――国境に近づけば、微弱な電流が流れ、脳細胞を死滅させながら、死に至らしめるように手術をされている。
 止めらなかったと、泣いていた。
 罪悪と向き合って、それでもティアを手元に置くのはどれだけ恐ろしかっただろう。
 ティアは薄く笑いながら、手を伸ばした。





 その言葉を黙って聞いているユウリヤは、ただティアを見つめた。
 心の中で出されている結論は、たった一つなのだ。それは誰であれ、反論に意味はない。

「繋いだ手を外してください」

 握っている手が、もう殆ど見えていない瞳に映る。

「なら、…自分でほどけばいい」


 限りなく冷たい声だと思う。声にしてみて、自分が怒っていることを知る。
 麻痺されてしまった感覚では、感情の意図さえも、把握出来なくなっていた。

「ほどいてしまえば、追いかけない。…俺はまた一人…置いていかれるんだ!」

 距離を伸ばすのはティアの言葉だし、その考え方だ。
「いいよ…振りほどいて」
 全てを決めつけるなら、決断も自ら下せばいい。



 培った時間も。
 語った言葉も。
 愛し合った、全ても。



「捨ててしまえばいい」

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